そのうち手術が必要と判っていた胃のポリープ切除の日が決まった。
血液検査もあるので栄養のバランスを考え食事を作ったが、入院二日前からぱたっと食欲が落ちてしまった。

家の周囲の草刈り、畑の手入れ、留守の間の諸手続きを済ませ、あわただしく入院。

手術前夜の食事は消化の良いもの少々。
手術当日は水も駄目、ドクターに全幅の信頼で手術に向かう。

目が覚めたら終わっており、一時間半経っていた。
切除のポリープを見せられ、この所、無気力だった原因がそれだったかと奇妙な安心感に浸った。
家を出る前「葬儀は無宗教で簡単に、墓石に戒名は不要、名前の一字(尚)を」と太筆で書き置いて来たが不要となった。

朝から点滴の連続、ゆっくりゆっくり落ちる滴をながめるだけの時は長い。
やがて日没、消灯となり、途端に同室三名の寝息が始まった。
平素寝つきの悪い私は羨ましく感じつつ、やはり寝られない。日付が変わる頃、空腹故かお腹が痛み始めた。

横になると痛い、座っていると楽、同室の年配女性達の鼾(いびき)が素晴らしい。活力に満ちている。
入口の私の名札に自力歩行とあったが、他の人は名前だけだったので、不便なお身体の皆さんの筈だが…
正統派鼾、さざ波から怒涛に変わるの繰り返しのタイプ。お経のような鼾、等々、一人一人でも様々なバージョンの鼾を発するのだ、と面白がっているうちに痛みがやわらぎ、眠りに落ちた。

先日テレビで観たスロベニアの湖のほとりのレストラン、四年前に行った時と同じコース料理が並んでいる。美味しいよと輝いている。
「私は白のドライ」
とワインを注いでもらい乾杯の手を伸ばしかけて(胃の手術を受けたばかりで飲食は駄目なんだ!)と思った瞬間、隣のベッドの特大鼾で目が覚めた。(夢なら味わっておけば良かったのに…)
朝になっても少しだけお腹のチクチクはあったが昼食の流動食を頂いたら全て痛みが消え去った。
私のお腹は不思議の塊だと苦笑だ。

ドクター始め、病院の皆さんのおかげで順調に回復。
予定通りの退院で帰宅したら、畑の収穫が待っていた。

夏の間水やりを続けた茗荷と豆がいっぱい。

茂みに分け入り、大量に収穫、差し上げる為友人宅をバイクで廻り、久しぶりの大しゃべり、楽しい一週間でもりもり元気になった。